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マダニ感染症と刺された時の症状・対処について

臨床検査技師、医動物学非常勤講師

中西 正憲

臨床検査技師として細菌検査、寄生虫検査、衛生動物(ダニ,ハエ等)検査をしています。大学の非常勤講師として 寄生虫・衛生動物についての授業も受…

こんにちは、臨床検査技師をしています。中西と言います。
前回、日本における主なマダニに関する記事を書かせていただいたのですが、やはりマダニにおいて最も困る問題と言えるのが人を刺すことによる被害かと思います。刺されることによって様々な皮膚症状が認められることもありますし、傷跡が残ることや感染症に罹患してしまう恐れもあります。
https://expertnote.jp/article/233/edit
↑前回記事「日本における主なマダニの種類について」
なので、今回はマダニに刺されることによって引き起こされる被害を含めた人へ及ぼす様々な害についてのお話をさせて頂きたいと思います。
今回も、よろしくお願いします。

イラスト:P.N.ちくわさんより友情提供

ダニエル君の一言メモ
皆さん。こんにちは、再び登場ダニエルです
今回は僕たちマダニが人に与える害に関するお話です。僕たちが人に寄生することで様々な悪影響を及ぼしてしまいます
別に僕たちも人に悪いことをしようと思って寄生してるわけではないんですけどね。人に寄生して血を吸うので色々と悪影響を及ぼしてしまうことは避けられないんです
なので今回はそんな僕たちマダニに関する被害のお話をさせていただきます
僕たちが嫌われるのはある程度仕方のないことなんですけど、あまり嫌いにならないでくださいね

目次

  1. 身近な場所で認められるマダニの被害
  2. マダニに刺される(咬まれる)ことによる被害
  3. マダニ感染症の種類
  4. マダニ以外のダニが媒介する感染症(恙虫病)
  5. マダニ感染症への対処法

身近な場所で認められるマダニの被害

身近な場所で発生するマダニとの遭遇

まずは身近な場所でのマダニとの遭遇についてです。マダニは山中や深い藪の中など普段人が立ち入らないような環境に多く生息してるものと、考えられるかたも多いかと思いますが意外と身近な場所でも見受けられる現状があります。特に家の周辺庭先と言った身近な場所でマダニを見つけたと言った報告が多くなされているのです。こういった身近な場所でマダニと遭遇する被害の増加に関しては大きく2つの要因が考えられます。
(もちろん、身近な場所でマダニに遭遇した場合は刺されるなどの直接の被害を受ける可能性も増加するので、その点も注意しなければいけません)

1.遭遇するマダニの種類

マダニは山間部など人の生活圏から遠く離れた場所に生息しているというイメージを持たれがちではありますが、種類によっては平野部に多く生息するもの都市部の様に人の生活圏内を好む種類も存在します。
遭遇するマダニとして最も多く報告されている種類はフタトゲチマダニと呼ばれる種類のマダニです。
このマダニは現在、最も日本で繁栄しているマダニ種であると考えられていて、主に牧場周辺などで普通に認められる種類と言われています。このマダニは宿主の幅が広いことが知られていて牛・馬等の大型動物だけでなく・ウサギなどの中・小型の動物にも好んで寄生します。他にもキチマダニの様に犬を好んで寄生する種類のマダニとの遭遇被害も報告されています。
この様な身近な動物を宿主とするマダニとの遭遇被害が多く報告されています。

2.住宅地の増加と野生動物の侵入

2つ目の要因としては元々は山だった場所を住宅地などに整備して人が居住することでマダニの生息域と人の生活圏が重なってきているということがあげられます。さらにこのような場所では野生動物と人との距離が比較的近くなっていることも、人とマダニが遭遇する機会を高める要因であると言えます。イノシシタヌキなどの野生動物が餌を求めて人家周辺などに出没し、その際に体に寄生していたダニを人家周辺などに落としていきます。そうすることで人家周辺の草地などでマダニが繁殖しやすい環境が生み出されるのです。これらのマダニが犬を散歩させる際に犬の体に付着したり飼い主の衣服に取り付いて、庭先などの身近な場所に入り込んでいるものと考えられます。

ダニエル君の一言メモ
ふぅ、僕たちは嫌われてるんです。人を刺すという実害もありますし見た目も恐そうですしね
そこは仕方がない部分でもあるんですけど・・・
人に対する実害が無くても見た目が気持ち悪かったり、恐かったりとヒトの気持ちを不快にさせると言うことでそんな虫を「不快害虫」と呼んでます
害虫と呼ばれる虫の中には他の虫を食べることで人に有益となるような虫も含まれています
なので、みんなにお願いです。見た目だけで僕たちを嫌わないでください
僕たちも精一杯生きる一つの命であることを忘れないでください

マダニに刺される(咬まれる)ことによる被害

やはり最も問題となる部分はマダニに刺される(咬まれる)ことによる被害かと思います。
マダニはヒトや動物の血を餌としているため、ヒトや動物に取りつくとその口を突き刺して吸血します。
この刺されることによる被害では2つの害を人に与えます。

1.刺されたことによる皮膚症状
2.人への感染症媒介

1.刺されたことによる皮膚症状

虫に刺された場合に真っ先に気になる部分としては刺されたことによる症状かと思います。
マダニに刺された場合の症状ですが痒み赤く腫れる(発赤)痛み(疼痛)などの皮膚症状を認める場合があります。ただ、刺されたからと言って必ずしもこういった症状が現れるというわけではありません。マダニに刺された場合でも特に何も症状が認められず刺されたことに気がつかない場合も多く認められます
*症状を認めない場合は吸血しているマダニがお腹いっぱいになって体が膨らんだ際に、初めて刺されていることに気づくと言うことも多いです。
こういった虫刺され被害の場合ですと虫刺されによる症状は吸血している虫に対するアレルギー反応によって引き起こされるため、初めて刺された場合など免疫が確立していない場合には何も症状を認めないと言うことになります。また、同じ虫に刺されても痒みや腫れなど様々な症状が認められるのもアレルギー反応に由来するため刺された人の状態や反応の強さなどがその時々で変わってくるからであるとも言えます。
マダニに刺された際にはマダニを取り除く時も注意しなければいけません。マダニは種類によっては皮膚の奥深くまで口を突き刺して吸血している場合があります。そのため、除去する際にマダニの口の一部がちぎれて皮膚の中に残ってしまう場合があるのです。そうなるとマダニに刺された箇所に異物肉芽腫というしこりが出来て長期間残ってしまうと言う症状が認められる場合もあります。
マダニに刺された際は自分で取り除くのではなく病院を受診して取り除いてもらうことが大切です
また、マダニの成長段階によっても刺される被害に違いが認められる場合があります。卵から産まれたばかりの幼ダニは一つの場所に大群でとどまっている場合があるのでそう言った箇所に人が踏み込むと多数のダニに一度に襲われることになります。そのような場合はより強い皮膚症状などが認められる場合もあるため注意が必要です。

布に付着した多数の幼ダニ期のマダニ(一か所に多数の幼マダニが潜んでいる)

皮膚症状以外の症状(アナフィラキシーショック)

マダニに刺された際にはこれらの皮膚症状だけでなく全身性にアレルギー症状が認められる場合もあります
いわゆるアナフィラキシーショックです。アナフィラキシーショックと言うとハチ毒による死亡事故などがよくニュースで取り上げられますがマダニにおいても激しいアレルギーショック症状を認めることが知られています。
特に過去にマダニに刺された経験がある場合は注意が必要となります。さらに1度でもマダニによるアナフィラキシーショックを経験したことがある場合は刺されるたびに同様のショック症状が認められる場合もあるためよりマダニに注意しなければいけません。
他にもマダニに刺される被害では時折、皮膚の広範囲が赤くなる紅斑という症状を認める場合があります。これは主にライム病と言う感染症で認められる症状なのですが、特に病原体への感染を認めない場合でもライム病の様な遊走性紅斑(無作為に広がる紅斑)や環状紅斑(環状に広がる紅斑)を生じる例が報告されています。これらの症状は1週間ほどで自然に軽快するとされていて何らかのアレルギー反応と考えられていますが詳しいことはまだ解っていません。

2.人への感染症媒介

そして最も注意しなければいけないのがこれらのマダニが体内に宿している病原体です。全てのマダニが何らかの病原体を宿していると言うわけではなく、病原体を宿しているものは一部分であるとされています
しかし、病源体宿しているからと言ってマダニの見た目や行動が変化するわけでは無いため全てのマダニに注意が必要です。
ではまずはマダニがこれらの病原体をその体内に宿すメカニズムから説明をしていきたいと思います。
マダニが病原体を体内に宿すメカニズムですが介卵伝播経発育伝播にわけられます。

介卵伝播

介卵伝播についてですがこれは親から子へ病原体が受け渡される伝播形式のことを指します。マダニは卵から生まれますが、親ダニが産卵をした卵の中に一緒に病原体が含まれていて親から子へ病原体が受け継がれていくという形式です。

介卵伝播の模式図

経発育伝播

経発育伝播ですがこれはマダニが成長の過程で様々な宿主から吸血する際に病原体を保有している宿主から吸血することで体内に病原体を保有するという形式のことを指します。

経発育伝播の模式図
病原体の種類によってどちらの伝播形式をとるかということも変わってきます。
マダニに刺された後、発熱等全身性の症状が認められた場合には感染症への罹患を疑う必要があります。マダニから感染する感染症には潜伏期間が長いものが多いので刺されて後しばらくは感染症への警戒が必要となります。マダニの感染症の中には致命的な転機をたどることもある危険な感染症も含まれているので十分な注意が必要です。
つづいてマダニが媒介する感染症の種類について詳しくお話をさせて頂きます。

ダニエル君の一言メモ
皆さん、意外と思われるかも知れませんが、僕たちマダニに咬まれても気づかない場合も多いんです
僕たちだってご飯の邪魔をされたくないですから、出来るだけそっと血を吸う様にしています
でも、激しいアレルギー症状が認められたりする場合もあるから油断したらだめですよ
僕たちマダニは皮膚の柔らかい部分が好きでお腹周りや脇の下、陰部なんかを刺してることもあります
山や川周辺、畑仕事のあとはよく気をつけて体を確認してね

マダニ感染症の種類

ここからはマダニに刺されることによって感染する感染症についてのお話をさせて頂こうと思います。上記の通りマダニはその体内に様々な病原体を宿している場合があります。そして、これらの病原体が吸血時に人の体内に侵入し様々な病気を引き起こすのです

感染症病原体媒介マダニ種
SFTSウィルス複数種のマダニ
ダニ媒介脳炎ウィルスヤマトマダニ
日本紅斑熱リケッチアチマダニ類、マダニ類
ライム病スピロヘータシュルツェマダニ
野兎病細菌キチマダニ、ヤマトマダニ
バベシア症原虫複数種のマダニ

日本で認められる主なマダニ媒介感染症一覧
上記が日本における主なマダニが媒介する感染症です。マダニが病原体を保有している確率は低く刺されたからと言って必ず感染症に罹患するわけではありませんが、危険な病原体を保有している可能性もあるためマダニの被害に会わないよう対策を講じることを怠ってはいけません。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

この感染症は2006年に中国で発見され、2011年に中国の研究者によって病原体が検出された発見された新しいダニ媒介性のウィルス感染症です。2013年の1月に日本国内で海外渡航歴の無い方でのSFTSウィルスへの感染が初めて確認されました
ウィルスに感染すると6日から2週間の潜伏期を経て、発熱消化器症状(下痢、腹痛等)などが認められ、頭痛筋肉痛意識障害などの神経症状、皮下出血下血などの出血症状などが認められることもあるとされています。
この感染症の恐ろしい所は致死率の高さで6.3から30%と報告されています。現在、この感染症に対する有効な治療方法は確率されておらず、対症療法での治療しかないと言うこともこの感染症が恐れられている理由です。
また、SFTSに感染している野良猫に咬まれたことによる感染の報告もされていて、マダニ刺されることによる感染以外でも注意が必要であると言うことが報告されています。
SFTSは西日本を中心に患者が認められていましたが、2018年現在、石川県や福井県でも感染者の報告がなされていて日本に広く分布していることが伺えます。現在、有効な治療薬やワクチンなどの開発がなされていないので感染しないように注意することが最大の予防法であると言えます。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
潜伏期:6日~2週間
症状発熱,消化器症状(嘔吐,下痢等),血小板減少神経症状(意識障害)等
感染経路:マダニに刺される,ウィルスに感染した動物に咬まれる
注意点:有効な治療法が無く致死率も高い。少しでも疑う場合は早期に病院を受診する

ダニ媒介脳炎

2017年に北海道でダニ媒介脳炎が確認されニュースでも取り上げられました。この感染症もSFTSと同様にマダニが媒介するウィルス感染症で、日本では北海道で確認されています。このウィルスには3種類のウィルス型が知られていてヨーロッパ型、シベリア型、極東型と呼ばれています。特に日本で認められる極東型は他の2型よりも致死率が高いことが知られているため注意が必要です。
ダニ媒介脳炎はヤマトマダニという種類のマダニに刺されることによって感染しますが、他にもヤギなどの家畜が感染してその乳汁の中にウィルスが認められることがあるという報告もなされています。ダニ媒介脳炎が認められる地域ではこれら家畜の生乳を未殺菌の状態で飲まない様に注意することも感染予防に繋がります。
このダニ媒介脳炎も有効な治療薬やワクチンなどが無いという現状があり、SFTS同様に感染しないように予防すると言うことが現在の対処方法となっています。
(海外では予防ワクチンの開発もなされているようですが、日本では使用されていないのが現状です)

ダニ媒介脳炎
潜伏期:1~2週間
症状頭痛発熱,悪心が1週間程度続く。その後、痙攣眩暈,知覚異常等
感染経路:ダニに刺される,感染した家畜の未殺菌ミルク
注意点:有効な治療薬はなし。日本では北海道で知られている

日本紅斑熱

日本紅斑熱はマダニが媒介するリケッチアによる感染症です。日本紅斑熱は主に関東以西の太平洋側での報告例が多い感染症ですが、新潟や福井などの北日本からの報告もあり感染域の拡大が警戒されています。また、2000年頃より患者数の急激な増加が報告されていて年間140人にも及んでいます。なかには感染者が死亡したケースも認められています。
この感染症の特徴は紅斑熱という名前にもあるとおり認められる症状に特徴があります。2日から8日の潜伏期間ののち高熱をもって発症し、皮膚に特徴的な紅斑が現れるのが大きな特徴でるとされています。そのため、発熱紅斑刺し口(マダニの吸血痕)がこの感染症の三大徴候とされています。
この紅斑は大きさが米粒大から小豆大で、境界不明瞭で痛みや痒みなどはなく、全身の皮膚に認められますが特に四肢、なかでも手掌部に顕著に現れるのが特徴であるとされています。
日本紅斑熱の媒介にはキチマダニフタトゲチマダニなどのチマダニ類が強く関わっているとされていて5月から10月ごろのマダニの活動が活発化する時期に合わせて患者数も増加するとされています。また、山間の地域ではイノシシなど野生動物が田畑などにやってきた際に、これらのマダニを落としていくため感染の危険が増加していると言うことも言われています。
日本紅斑熱は有効な治療薬も開発されていてドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生剤やニューキノロン系抗生剤が有効であるとされています。
マダニの刺し口は脇の下などの確認しづらい場所に出来ていることもあり、必ずしも日本紅斑熱の患者さんで確認されるものではないともされているため、特徴的な紅斑症状が認められた場合には早期に医療機関を受診して相談することが大切です。

日本紅斑熱
潜伏期:2日~8日
症状発熱が2~3日続く(重症では40℃以上),頭痛,全身に現れる紅斑(特に四肢,手のひら)
感染経路:ダニに刺される
注意点:特に8月~10月に患者が増加する。抗生物質による治療が可能

ライム病

1975年にアメリカのライム地方で発見されたためライム病と命名された感染症で原因はマダニが媒介するスピロヘータです。
日本ではシュルツェマダニが媒介することが知られています。このライム病に特徴的な症状は皮膚に生じる遊走性紅斑です。
マダニに咬まれてから7日から10日後刺咬部を中心に紅斑を生じて遊走性に拡大します。(皮膚の広範囲に無秩序に紅斑が広がる症状)紅斑の周辺部では鮮紅色・浮腫状で中心部では退色傾向を示します。それと同時に頭痛や発熱などのインフルエンザ様の症状も認められるとされています。
ライム病は神経炎や脳炎、髄膜炎などを生じる危険な感染症ですが、日本で認められるライム病は比較的軽症であり紅斑症状とインフルエンザ様の症状のみに止まる場合が多いとされています。また、北海道ではライム病の病原体に対する抗体陽性率が56から80%と高値を示していることから不顕性感染や他の感染症として処理されている可能性も高いと考えられています。
このライム病はシュルツェマダニが媒介するため北海道を中心に認められていますが、シュルツェマダニは本州でも海抜800m以上の高地に生息することが知られているので注意が必要です。さらに、この感染症の不思議な所としては朝鮮半島ではシュルツェマダニではなく、形態的によく似たタネガタマダニが媒介者であることが知られているのですが、日本ではタネガタマダニが媒介していないことから疫学上の謎であると言われています。

ライム病
潜伏期:7日~10日
症状遊走性紅斑(ダニに刺された箇所を中心に遠心性に拡大する),頭痛,発熱等(インフルエンザ様症状)
感染経路:ダニに刺される(シュルツェマダニ
注意点山間部に媒介ダニが生息、北海道では平野部も含む。日本では軽症の場合が多い

野兎病

野兎病はマダニが媒介する感染症でFrancisella tularensisという細菌が原因の急性熱性疾患で世界に広く分布しています。
日本では主に東北地方で認められ、キチマダニヤマトマダニが媒介者であると考えられています。マダニに刺されることによる感染以外に感染している野兎を解体・調理する際に経皮感染することも知られています。
傷口や粘膜などへの接触だけでなく健康な皮膚からも感染すると考えられているため非常につよい感染力を持つとされています。衰弱した野兎や死亡している野兎に直接触れたりしないように注意が必要です。
潜伏期は10日とされていて発熱や頭痛などの風邪様症状に始まり、感染創の化膿リンパ節の腫脹へと続きその後、血液やリンパの流れに乗って全身に広がり内臓に壊死巣をつくるとされています。治療の際はストレプトマイシン等の抗生剤で治療を行います。

野兎病
潜伏期:10日
症状:発熱,頭痛等(風邪様症状),リンパ節の腫脹,内臓に壊死巣の形成
感染経路:ダニに刺される,感染した動物との接触(野兎,リス等)
注意点病原体の感染力が強く健康な皮膚からも感染する。抗生物質での治療が有効

バベシア症

バベシア症はマダニが媒介する原虫による感染症です。アメリカやヨーロッパでは人体寄生例の報告がありましたが、1999年に日本で初めて国内での感染例が報告されました。
日本では元々牛などの家畜イヌ、野生動物への感染が確認されていましたが、ヒトへの感染は確認されていませんでした。この原虫の特徴としては原虫が赤血球内に寄生するためマラリア原虫との鑑別を有する点があげられます。
マダニに刺されてから1から3週間の潜伏期をもって症状が現れ不快感発熱などのほかに、溶血貧血などの症状が認められるとされています。抗体検査の結果で抗体陽性者が多数見つかっていることから不顕性感染が多いのではないかと考えられています。
海外では不顕性感染患者の献血血液を介した感染事例の報告もあります。

バベシア症
潜伏期:1~3週間
症状:発熱,不快感,溶血性貧血
感染経路:ダニに刺される
注意点赤血球に寄生するのでマラリアに似ている(症状もマラリアに似ていると言われる)

ダニエル君の一言メモ
このように僕たちはいろいろな病原体の媒介者(ベクター)の役割を果たしています
これも僕たちが嫌われている一因なんですよね
特にSFTSなどの治療法が確立していない感染症や日本紅斑熱の様に感染者が多い感染症は注意してくださいね
僕たちも全員が病原体を宿しているわけではないんですけどね。病原体を宿している場合でも見た目が変化するわけではないので咬まれないように対処するのが一番です

マダニ以外のダニが媒介する感染症(恙虫病)

マダニが媒介する日本紅斑熱という感染症とよく似た症状を呈する感染症として恙虫(ツツガムシ)病というものが知られています。ここからはこの恙虫病についてお話をさせて頂こうかと思います。
この恙虫病ですが日本では古くから知られている感染症で、「ふるさと」という童謡に「恙なしや友がき」という歌詞が出てきますが、ここで言う「恙なし」という言葉は恙虫病に罹っていないかを心配することであると言われていて日本では非常に馴染みの深い感染症でもあります。
この恙虫病ですが名前に有る様にツツガムシというダニの仲間が媒介する感染症です。このツツガムシはマダニとはまた違った生活をおくっている虫です。なのでまずは恙虫病の媒介者であるツツガムシについて説明したいと思います。

恙虫について

ツツガムシはマダニとは違う種類に属するダニの1種です。俗にケダニとも呼ばれ体中に長い毛が生えています。
ツツガムシとマダニは大きさも異なります。マダニは成虫では小さなもので2から3㎜、大きなものでは5㎜程度と肉眼でも安易に確認出来ますが、ツツガムシは成虫でも1㎜程度と非常に小さなダニです。幼ダニ期のものは更に小さく0.2㎜程度と肉眼で確認することが困難な大きさです。
また、マダニは地上で生活を行い人や動物に寄生する寄生生活をおくっていますが、ツツガムシは土中で生活を行い小昆虫や昆虫の卵を捕食する自由生活をおくっています。
そんなツツガムシも成長において1時期のみ動物への寄生を行う時期があります。卵から産まれた幼ダニ期のみネズミ等の小動物に寄生して皮膚成分やリンパ液を摂取します。成長して若虫期になれば土中へと生活の場をうつし以後動物への寄生は行いません。
マダニは平野部や山間部など広範囲に分布していますが、ツツガムシは河川敷や川沿い、湿地など宿主となるネズミが多く生息する環境に生息しています。
恙虫病は介卵伝播によって受け継がれることが知られていて、病原体を宿した幼ダニに人が咬まれることによって感染します。

名前ツツガムシマダニ
大きさ1㎜2~3㎜
幼ダニ0.2~0.3㎜1㎜
生息地地中地表
寄生時期幼ダニ期全発育期
摂取物体液血液
生活状況土中で自由生活動物等への寄生生活

ツツガムシとマダニの違い

恙虫病

恙虫病には2種類の病型が知られていて、古典型恙虫病新型恙虫病と呼ばれています。しかし病原体や認められる症状に違いはなく原因はOrientia tsutsugamushiというリケッチアによる感染症です。
ツツガムシ科に属するフトゲツツガムシ,アカツツガムシ等が媒介します。恙虫病は介卵伝播により受け継がれていきます。

古典型恙虫病

古くから秋田県、山形県、新潟県を中心に認められていて河川域に生息するアカツツガムシが媒介者であることが知られていました。高い死亡率を示し毎年、夏場に多くの人が恙虫病で命を落としていたと言われています。しかし、この古典型恙虫病は現在ではほとんど認められなくなりました

新型恙虫病

第二次世界大戦後、東北3県に認められていた恙虫病が全国各地で認められるようになり便宜上新型恙虫病と名付けられました。新型恙虫病は一般に軽傷であるとされていますが、治療が遅れた場合などは致命的な転機をたどることもあるとされていて注意が必要です。
恙虫病の症状は日本紅斑熱と類似しているとされていて、恙虫幼虫の刺し口発熱発疹が特徴的な症状で他にもリンパ節の腫脹などが認められます。刺し口は陰部乳房脇の下などに多く大きさは1㎝ほどで2日から3日すると紅色丘疹を生じて、水疱から膿疱、かさぶたへと変わり、かさぶたが剝れて潰瘍が出来るとされています。これはツツガムシの特徴的な刺咬痕で恙虫病診断の決め手の一つと言われています。発熱はツツガムシに咬まれて10日程の潜伏期間をもって現れるとされています。インフルエンザ様で倦怠感や頭痛を伴って、39℃から40℃に達する高熱が出るとされています。発疹は第3病日頃から現れ帽針頭大淡赤色の丘疹が全身に現れるとされています。発疹は独立していて痛みや痒み、出血なども認められないとされています。
恙虫病もリケッチアによる感染症なのでテトラサイクリン系やクロラムフェニコール系の抗生剤が有効です。
恙虫病は東北や北陸では4月から6月11月から12月に認められ、関東以西の温暖地では10月から12月に多く認められるとされています。近年、患者数は減少傾向であると言われますが、今なお年間300人から500人の感染者が認められる要注意感染症です。

恙虫病(古典型・新型)
潜伏期:10日~14日
症状発熱(40℃近く),インフルエンザ様症状(全身倦怠,頭痛),淡赤色の発疹(全身性、特に体幹部)
感染経路:ダニに刺される(ツツガムシ
注意点春(3~5月)と晩秋(11月頃)に多くみられる。刺された跡が特徴的

ダニエル君の一言メモ
ツツガムシ君についてだね
ツツガムシ君は主に土の中にいて虫などを食べる大人しいひとです。子どもの時だけ野ネズミなどに寄生するんですけど、その時間違えて人に寄生しちゃう場合もあります
主に野ネズミが好きな河川敷や川沿いに多く暮らしていますから皆さんもそう言った場所に立ち入る時は気をつけてくださいね
ツツガムシ君は僕たちマダニより小さいから咬まれてももっと気づきにくいですよ

マダニ感染症への対処法

マダニに刺されることを予防する

マダニ媒介感染症に感染しないためには何よりもマダニ刺されないように予防することが何よりの対策になります。病原体を宿しているかいないかは見た目で判別できるものではないため、全てのマダニに刺されない様に予防に努めることが感染症の被害を受けないためには必要です。
そして山間の環境などマダニとの距離がより近い場所では、日常生活においてもマダニの被害に会わないように注意することが必要です。

・雑草を取り除いてマダニが居つきにくい環境を作る
・野生動物の侵入防止やペットのケアを行う
・マダニに忌避効果のある虫除けの使用
・農作業などの際は長袖、長ズボンの着用 等

上記のような具体的な対策を日ごろから実施しておくことも被害を防ぐためには重要です。

マダニに刺された場合の対処


↑3か月ほど前にマダニに咬まれた傷跡(筆者の足)
マダニに刺された場合は個人で対処を行おうとせずに速やかに医療機関を受診してください。特にマダニ属やキララマダニ属のマダニの場合は口を皮膚の深くまで突き刺して吸血をするため物理的に除去することが難しいことが理由としてあげられます。
さらに、マダニは吸血の際に余分な水分や塩分を唾液として宿主の体に吐き戻すため、咬まれた際には早期に除去することが感染症の予防につながります。マダニの体を下手に刺激すると体内に保有している病原体を体内に押し込んでしまう危険があるためマダニには触れずに医療機関を受診して医師に除去してもらってください。
(マダニの体を刺激することは注射器のお尻を思い切り押し込むのと同様になる場合があります)
また、マダニに刺された後は体調の変化に注意しておくことも重要です。ダニが媒介する感染症には潜伏期間が長いものもあるため2から3週間程度は体調の変化に気をつけて発熱などの症状が認められる場合には速やかに医療機関を受診して医師に相談してください
マダニに刺された時に自覚症状が現れずいつ刺されたか不明な場合もあります。マダニが膨らんで初めて刺されていたことに気がつく場合もあるので、そうした場合にはいつごろから刺されていた可能性があるのかそう言ったことを医師に伝えて相談することも必要です。

ダニエル君の一言メモ
大事なことなのでしっかりとお伝えします
マダニに咬まれた際は下手な対処は厳禁ですよ!とっても危険ですから絶対に手出ししないでお医者さんに行ってください
その後の経過観察も忘れないでください。潜伏期間が長いものもあるので体調に変化があった場合にはすぐにお医者さんに行って相談してください

マダニはその体内に危険な病原体を宿している場合がありますが全てのマダニが病原体を宿しているわけではありません。過度にマダニを恐れるのではなく、マダニの生態を理解してマダニを人の生活圏に寄せない、マダニに咬みつく隙を与えないことが第一の対策となります。自然が豊かになりそこに暮らす生き物が増えれば、おのずとマダニの様な寄生生物も増えてくるのが自然の営みというものです。そのことを踏まえて行動することが人にとってもより良い生活環境を作り出すことに繋がります。
人と自然がうまく共存できる社会を形成することが何より重要であると言えます。

ダニエル君の一言メモ
これで僕の話はおしまいです。今回もありがとう!
僕たちマダニも自然の一部なんです。自然が豊かになればそれだけ僕たちが増える環境も整っているわけだから
虫を毛嫌いする人もいるけど、自然が豊かであることは虫を初めとする多くの生き物にとって住みやすい環境が出来ている証拠だからそのことを忘れないでほしいな
僕との約束だよ‼

参考文献
「図説 獣医衛生動物学」今井壮一、藤崎幸三、板垣匡、森田達志 著(講談社サイエンティフィク)2009
「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」夏秋優 著(秀潤社)2013
「医療従事者のための医動物学」伊藤洋一、山口昇、安居院宣昭、内田明彦 著(講談社サイエンティフィク)1995
「ダニ病学 暮らしのなかのダニ問題」高田正敏 著(東海大学出版会)2013
「医動物学 改定7版」吉田幸雄、有薗直樹、山田稔 著(南山堂)2018
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html
https://www.niid.go.jp/niid/ja/tick-encephalitis-m/tick-encephalitis-iasrd/7919-457d01.html

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臨床検査技師、医動物学非常勤講師

中西 正憲

臨床検査技師として細菌検査、寄生虫検査、衛生動物(ダニ,ハエ等)検査をしています。大学の非常勤講師として
寄生虫・衛生動物についての授業も受け持っています。臨床寄生虫学会に所属していて現在の日本の寄生虫の状況など
についても学んでいます。

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